column057 設計事務所との進め方

投稿者:

依頼先を考える

今回書きたいことの前提の話になりますが、整理する意味も含めて、住宅建築の依頼先について少し書きたいと思います。
まず、基本的なこととして、住宅建築を進める場合は以下の3つの依頼先があります。
・設計事務所
・工務店
・ハウスメーカー

いずれにご依頼される場合でもメリット・デメリットがありますので、基本的には家づくりされたい皆様の考え方によりますが、その辺りは過去のコラムでも書いています。
以下にリンクを貼っておきますので、ご参照頂ければと思います。
・設計事務所と工務店の違い → column003 設計事務所と工務店の違い 
・設計とは何か → column054 設計とは何か

本コラムはこれらの検討を経て、晴れて設計事務所へ依頼することを決めた方々へ向けた内容になっておりますので、設計事務所を依頼先に選択することにどのような意味があるのかを考えて頂く良いきっかけになればと思います。

 

設計事務所とクライアントのことを考える

設計事務所と家づくりをされたい皆様(以下、クライアント)の違いとして、当たり前ですが、住宅建築のプロフェッショナルとアマチュアという違いがあります。
それは「住宅建築の知識や技術、経験(以下、建築知識等)に差がある」とも言い換えられますが、この差はクライアントがどんなに勉強したところで、(縮まるかもしれませんが)無くなることはないと思っています。

見方を変えると、クライアントがその設計事務所より建築知識等があると感じた場合は、依頼先として本当に適しているのか考えるべきだと思いますが、そのあるなしの差を的確に判断できるクライアントも殆どいないとは思います。

それでは「クライアントが目指す家づくり」と物事を限定する場合は、如何でしょうか。
この場合は、設計事務所はクライアント自身ではありませんので、設計事務所がどんなに寄り添ったところでクライアントの方が良く分かっていると思います。

それらのクライアントが目指す家づくりは、普段の生活や過去の暮らしで体験・体感したことから「もっとこうなると良い」といった希望を形にすることですが、ここで1つ問題があります。

それは、クライアントは設計事務所と比較して建築知識等に乏しいために、それらの希望が上手く言語化(若しくは整理が)出来ていない点です。

 

希望との向き合い方を考える

希望との向き合い方はクライアントでそれぞれなのですが、ここではダメな例の1つを書きたいと思います。
それは、クライアントが自身の希望・考え方に固執することです。

家づくりをされる皆様は、家づくり自体がこれまでの生活の延長線上にあるので、それらを踏まえた希望は伝えることは出来ます。

しかし、先にも書きましたが、設計事務所と比較して建築知識等が足りていないので、その希望が家づくり全体を考えた時に適したコトなのかは判断が出来ません。

設計事務所は、クライアントの希望を確認し、それらを咀嚼し、総合的な判断でご提案をします。
その提案がクライアントの想像の範囲であれば意見の相違など問題は少ないと思いますが、想像を超える提案だった場合に「固執」することが判断を難しくさせます。

クライアントは、家づくりのことを真剣に考えれば考えるほどにこの固執というドツボにはまりますが、様々な検討の下で選択した依頼先である設計事務所のことを信頼して、固執せずに受け入れてみることも必要だと思います。

また、受け入れることが出来ないようですと、設計事務所に依頼する意味があまりないように思います。

 

失敗とは何か

家づくりは、多くの方の人生において一大イベントだと思います。
そのことは「失敗したくない」との思いにつながることになりますが、では実際に「失敗した」とはどういった状況でしょうか。

例えば、始めに思い描いた家にならなかった時でしょうか。
確かに、希望の半分しか実現が出来なかったら失敗と思うかもしれませんが、同時に残りの半分が想像にもしていなかったアイディアが実現されていた場合は如何でしょうか。
それも失敗したと思う状況なのでしょうか。

要は、始めに思い描いた家にならなかったことが失敗であるとも言えません。

クライアントは暮らしという中で住宅建築を理解しているつもりですが、実際は知らないことであったり想像が出来ないことがあり、多くの部分で依頼先であるプロにお任せする他ありませんので、どうしても想像とは違った部分が出てきます。

また、「家づくり全体として満足している」ことは「失敗した部分がない」ことになるのでしょうか。
設計事務所は(ある部分ではクライアントの想像を超えて)使い勝手などを考えて設計していると思いますが、クライアントの想像と違うことを「失敗したかも」と認識するかもしれません。

要は、家づくり全体として満足しているので暮らしや生活において大きな問題ではないが、部分的に使い勝手の悪い「失敗したと思う」箇所が存在する、ということです。
私も多くの住宅を設計してきましたが、「ここがちょっと・・」と言われることが全くないとは言い切れません。

この「失敗したかも?」を回避したくて、打合せ中に思考を停止(決断できない)してしまう方がたまにいらっしゃいますが、これらの状況が起こり得ることに家づくりの難しさがあると私は思っています。

 

冒険心をもっているか

そういったことを踏まえると、住宅を建築するということは、
海のものとも山のものとも分からないことへのチャレンジだ!
ぐらいに理解している方が、家づくりにもっと柔軟に取り組めるのではないかと思っています。
私はそれを「冒険心をもつこと」だと表現しています。

もう少しかみ砕いてご説明します。
始めにも書きましたが、人生の一大イベントであることは間違いないので、考えないといけない重要なことはたくさんありますし、クライアントが簡単に判断又は決断の出来ないことが出てきたりします。

その判断等について、後押しする為のワクワクするような提案をすることは設計事務所の仕事の1つですし責任は重大ですが、最終的にクライアントが判断等をしないことには話が先に進みません。
その判断等をする為の心構えとして、多少なりとも冒険心をもつことが重要だと考えています。

正直な考え方として、クライアントの思う・考える希望に100%沿った提案を求めているようでしたら、設計事務所を依頼先に選ぶ必要はあまり無いと思います。

理由は、工務店やハウスメーカーの方が希望を多面的に捉えて又は飛躍して提案してくることが少なく、完成する家が想像しやすい為に設計事務所に依頼するほどの冒険心も必要がないと考えているからです。

設計事務所は「自分の想像すらしていない住宅を建築してくれる依頼先」ということが念頭にあると、設計事務所と良い距離感や関係性を保ちながら家づくりが進められると思いますが、如何でしょうか。

 

関連記事