column039 定常結露計算で比較する

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column038の続きです。

 

定常結露計算とは

前回のコラムでも書きましたが、防露性能を確認するための計算方法として「定常計算」と「非定常計算」があります。

定常とは、各部の空気温などが時間によって変化がない、各断面の熱や湿気の流量が一定な状態を指しています。
自然現象としてはあり得ない状態ですが、計算をシンプルにすることで答えを得やすくするための計算方法です。

非定常とは、空気温などが時間と共に変化する状態のことで、壁体の熱移動は厳密には常に非定常です。
より現実に近い計算方法と言えますが、材料の蓄熱性なども考慮されるため、計算が複雑になります。

一般的には定常計算の方が安全側ですので、一次元定常計算による防露性能計算で内部結露発生の有無を確認します。
一次元定常計算は、表面及び材料境界面における「温度」「飽和水蒸気圧」「理論上の実在水蒸気圧」を求めて、「飽和水蒸気圧」と「理論上の実在水蒸気圧」を比較することによって結露判定を行います。

弊社では、二次元定常計算が可能なシミュレーションソフトにより防露性能を確認しておりますが、今回はそのソフトを用いて様々な外皮構成についてシミュレーションをしてみたいと思います。

 

防露性能を比較する

比較の外皮構成を下記とします。※構成は室内側から記載しています。
1) 石膏ボードt12.5+防湿シート(あり)+柱間充填断熱①t120+構造用合板t9
2) 石膏ボードt12.5+防湿シート(なし)+柱間充填断熱①t120+構造用合板t9
3) 石膏ボードt12.5+防湿シート(なし)+柱間充填断熱②t120+構造用合板t9
4) 石膏ボードt12.5+防湿シート(なし)+柱間充填断熱②t120+ハイベストウッドt9
5) 石膏ボードt12.5+防湿シート(なし)+柱間充填断熱②t120+ハイベストウッドt9+付加断熱t90
※充填断熱材①は、高性能グラスウール16K(λ=0.038)とする。
※充填断熱材②は、セルローズファイバー(λ=0.040)とする。
※付加断熱は、ネオマフォーム(λ=0.020)とする。

また、外気と室内の条件は下記として、基本的には「住宅の省エネルギー基準の解説」の計算方法に則ります。
・外気:温度0.9℃、湿度70%(地域区分全域を対象とする場合の旧4地域の条件)
・屋内:温度10℃、湿度70%
屋内の温度設定が引くすぎるところに、日本の屋内環境への意識の低さを感じますが、ここではスルーします。

 

1)石膏ボードt12.5+防湿シート(あり)+柱間充填断熱①t120+構造用合板t9
まずは、耐力面材としてポピュラーな構造用合板にGWを柱間に充填した外皮構成をシミュレーションします。

住宅金融支援機構の仕様書(以下、公庫基準)にも掲載されている「繊維系断熱材+防湿シート」の納まりですので、問題はなさそうです。

 

2)石膏ボードt12.5+防湿シート(なし)+柱間充填断熱①t120+構造用合板t9
今度は、先ほどの状態から防湿シートを施工しない外皮構成です。

ちなみに、赤くなるほど相対湿度が100%に近づいて行きますが、この外皮構成は構造用合板の室内側が100%になっており、結露を起こしています。
防湿シートをきちんと施工しない場合もこれに近い状況だと考えると、防湿シートを隙間なく施工することが非常に重要です。

 

3)石膏ボードt12.5+防湿シート(なし)+柱間充填断熱②t120+構造用合板t9
今度は、先ほどの充填断熱をグラスウールから調湿性に優れていると言われるセルローズファイバーに変更してみます。

これも、グラスウールの時と同様に100%になっています。
「セルローズファイバーを使えば、調湿するから防湿シートは不要」なんて話を聞くことがありますが、全ての外皮構成で防湿シートが不要にならないことがこれで分かります。

では、セルローズファイバーで防湿シートを省略するにはどうしたら良いか。

 

4)石膏ボードt12.5+防湿シート(なし)+柱間充填断熱②t120+ハイベストウッドt9
結論から言えば、構造用面材を構造用合板からハイベストウッド(又はダイライトなど)に代えます。
要は、透湿抵抗の低い材料を使います。

確かに赤い部分がなくなりましたので、結露はしないようです。

最後に、付加断熱を施工した場合のシミュレーションを行います。
何故これを検討するかと言うと、本来の家づくりで考えないといけないことは、屋内環境を快適にすることです。

4)の外皮構成だと結露はしなくなりましたが、屋内環境が良くなったかと言えば、そうとも限りません。
ここで、屋内環境のことを考え、この構成に付加断熱を加えるとどうなるのかをシミュレーションしてみます。

 

5)石膏ボードt12.5+防湿シート(なし)+柱間充填断熱②t120+ハイベストウッドt9+付加断熱t90

若干赤い部分が出ましたが、数字は92%ぐらいで納まっているので、基準上(100%でなければ良い)はクリアしています。
実際の話しとして、ここまでの断熱をしていると室内温度が10℃ではなくなり、温度環境が良くなる(温度が上がると相対湿度は下がる)ので、実際の室温でシミュレーションすると数字は改善すると思います。

尚、この外皮構成に防湿シートを張ればより安全なことは間違いないので、なるべく防湿シートは省略せずに施工することが望ましいと思います。

 

基準以外の納まりは、計算が必要

今回シミュレーションした中で、公庫基準で認められているのは1)だけです。
それと、4)は面材をダイライトに代えれば認定を取っているので、ある意味基準がある仕様です。

しかし、2)3)のように一歩基準から踏み外すと思わぬ結果が待っており、改修やリノベーションなどで普段と異なることをする場合は注意が必要です。

また、5)のように基準にない納まりの場合は、フラット35や長期優良住宅などの省エネ基準は満たせないので、それを回避するには計算して問題がないことを証明しないと行けません。

ここでは基準のことを書いていますが、本来重要なことは、どういった外皮構成だと結露の危険性が増すのか、を設計者が把握していることです。
本日行ったシミュレーションはそれらの一部でしかなく、様々なシミュレーションを繰り返し、1つ1つの状況を覚えて行くしかありません。

温熱環境を考え出すと(当たり前ですが)検討することが増えますが、それは住まいと住まい手の健康と快適を考えた家づくりをするためには必要なことだと捉え、こつこつと真摯に向き合っていくしかありません。

 





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