column034の続きです。
日射熱取得とは
日射とは、建物の窓から入射する太陽エネルギーのことですが、その量が多いと暖房負荷(分かり易く言えば、暖房に必要な光熱費)の軽減に役立ちます。
しかし、夏に同じ量の日射があれば、それは膨大な冷房負荷となりますので、きちんと遮蔽する必要があります。
要は、日射において、パッシブデザインを考えるのであれば、取得と遮蔽はセットで検討することが重要です。
そんな日射熱取得ですが、その取得量は周辺環境や建物の方位、取り込む窓(ガラス)の性能や大きさで大きく変わります。
そこで、その取得量が各条件でどの程度変わるのか、PHPP(パッシブハウスを検討するためのエクセルソフト)で比較検討してみようと思います。
比較対象は、PHPP上の「暖房需要」とします。
物件は、弊社で設計を進めております「House-MS」を参考に検討します。
簡単な概要は、、
・木造住宅2階建て 延床約130㎡
・Ua値:0.287
・方位は、西側に10°振れていますが、南向きの良い条件です。
・南面に、5箇所ほど大開口を設けています。
・窓数は、全体で15箇所設置しています。
日射熱取得量を方位で比較する
現況の方位は、西側に10°ふれていますが、この時の各数値は下記となります。
◎暖房需要(kWh/㎡・a)/暖房期の日射取得(kWh/a)/暖房期の熱損失(kWh/a)=22.26/4183/1628
これを、真北から45°になるように、更に35°西側へ振ると、、
◎暖房需要/暖房期の日射取得/暖房期の熱損失=27.02/3273/1628
結果としては、日射取得量が900 kWhほど減った影響で、暖房需要が27.02 kWhまで増加してしまいました。
正直なところ、27.02 kWhでも現在の日本の省エネ基準からすれば相当低い値ですが、これがパッシブハウスを狙うような場合、暖房需要が5 kWhも増加してしまうと致命的です。
よって、東京などの都市部では難しいことが多いですが、なるべく真南を向いた敷地を選ぶか、若しくは、敷地に余裕があれば真南に向くように建物を回転させるなどの対応が、パッシブハウスにする上では重要です。
日射熱取得量をガラス性能で比較する
現在の窓仕様は、Uniluxというドイツ製樹脂窓(トリプルLow-E)で、ガラス性能を下記で検討しています。
・南面窓(日射取得):Ug値/熱貫流率 0.6(W/m2K)、g-value値/日射取得率 0.6
・その他(日射遮蔽):Ug値/熱貫流率 0.5(W/m2K)、g-value値/日射取得率 0.53
※南面のg-value値が実際と若干異なりますが、検討上の参考数値とお考え下さい。
また、その時の各数値は先ほどと同じですが、下記となります。
◎暖房需要/暖房期の日射取得/暖房期の熱損失=22.26/4183/1628
これを、日本の省エネ基準で使用するような樹脂アルミ窓(ペアLow-E)にすると、それぞれの値は下記となります。
・南面窓(日射取得):Ug値/熱貫流率 1.6(W/m2K)、g-value値/日射取得率 0.5
・その他(日射遮蔽):Ug値/熱貫流率 1.6(W/m2K)、g-value値/日射取得率 0.4
※ここで記載した値は目安であり、特定の商品を示すものではありません。
◎暖房需要/暖房期の日射取得/暖房期の熱損失=45.91/3811/4134
結果としては、取得より損失が多くなり、収支でマイナスになってしまいました。
確かに、Unilux製樹脂窓は超高性能の部類だと思いますが、日本の省エネ基準で求めている窓性能がいかに低く設定されているのか、が良くわかります。
また、比較対象としてガラスの性能しか記載しておりませんが、実は枠の性能も多分に影響します。
※上記の検討は、窓枠の性能も変えています。
ここで、枠のみを樹脂アルミ製から樹脂製(一般的な性能の商品)に変更すると、各数値は下記のように改善します。
◎暖房需要/暖房期の日射取得/暖房期の熱損失=42.05/3317/3338
先程の樹脂アルミ製では収支でマイナスだった日射取得が、ほぼイコールになりました。
実際は、樹脂窓に変更すればガラス性能も良くなる傾向にあるので、取得の方が多くなると思います。
ここで分かることは、パッシブデザインとして日射取得を増やすために窓を多くしても、その窓性能が悪いと善かれと思って検討したパッシブデザインが悪影響を及ぼすことになる、ということです。
よって、最低でもペアLow-Eの樹脂窓、可能ならばトリプルLow-Eの樹脂窓若しくは木製窓を採用した方が、パッシブデザインの効果がきちんと発揮出来ると思います。
日射熱取得量を窓サイズで比較する
ここでは、単純に大きさを変えて比較します。
比較対象は取得量なので、南面の日射取得窓を小さくすると数字がどのように変化するのか、を検証してみます。
基準の各数値はこれまでと同様、下記となります。
◎暖房需要/暖房期の日射取得/暖房期の熱損失=22.26/4183/1628
ここで、窓の高さを2/3に小さくすると、各数値が下記になりました。
◎暖房需要/暖房期の日射取得/暖房期の熱損失=29.51/2585/1303
当然ですが、日射取得量が減ったので、暖房需要が7kWh以上増加しました。
ここで、方位を変えた(方位45°)時の値をもう一度下記します。
◎暖房需要/暖房期の日射取得/暖房期の熱損失=27.02/3273/1628
ここで分かることは、窓サイズを2/3にした方が、方位を変えるより影響が大きいということです。
エコハウスを目指すために
これらの取得量の検討は、イメージや経験だけでは正確に判断することが出来ません。
PHPPや建もの燃費ナビなどの日射取得量がシミュレーション出来るソフトを使うことが重要だと思います。
また、ある程度まで建物性能が良くなってくると、断熱強化だけで暖房需要を5 kWh以上削減することはとても大変です。
プランの段階からシミュレーションを重ね、建物の向き、窓の位置や大きさ、設置数などを検討し、パッシブデザインとしてバランスのとれた設計をすることが重要だと思います。