東京23区のUa値とは
2020年に省エネ基準が住宅レベルでも法制度化されようとしていますが、未だ断熱性能を良くすることに二の足を踏んでいる方々がいらっしゃいます。
初めから毛嫌いしている方もいれば、計算などが良くわからない為に思考停止している方もいるのかもしれません。
「そんな難しいことではないし、悪いものでもない」と思いますが、計算という数学的要素がコトをややこしくしているのかもしれません。
そこで今回は、そんな方々がまずはどこを目指したら良いのか、が分かるようになるべく平たい計算を用いて答えを探してみようと思います。
フラット35や長期優良住宅などで住宅の断熱性を評価するために「Ua値」という指標を使います。
「Ua値」とは「外皮平均熱貫流率」のことで、外気等に接する天井・壁・床及び開口部からの熱の通しやすさの平均を表しており、単位を書くと「W/㎡・K」になります。
これは、数字の大きい方が熱を通しやすいという意味であり、「数字が大きい=断熱性が悪い」と言うことも出来ます。
Ua値の基準には、公的な基準である省エネ等級(以下、断熱等級4)やZEH、又は民間のHEAT20(以下、G1若しくはG2)で定めている基準などがあります。
「断熱等級4→ZEH→G1→G2」の順で厳しい値になりますが、東京23区で言えば「0.87、0.60、0.56、0.46」という値になります。
これだけ見ても、どんな断熱材や窓を使えば良いのかイマイチ分からないと思います。
そこで「それぞれの値で断熱材や窓がどう違うのか?」を検証してみます。
断熱仕様をUa値化してみる
基準は断熱等級4の0.87とし、その仕様(以下、基準仕様)は下記とします。
①木造2階建て 延床面積 116㎡、②窓面積の合計 ①の18%位、③天井断熱 高性能グラスウール16K(以下、HGW16)t=90、④壁断熱 HGW16 t=90、⑤床断熱 XPS t=30 ⑥窓性能 Uw=4.65、η=50
尚、使用ソフトは住宅性能評価・表示協会でDL出来る「外皮計算シートEXCEL」です。
因みにですが、上記の中で天井と床は「旧省エネ等級4」で使用すべきだった断熱材より薄くなっています。
要は、多少断熱性能を落としても同じ等級4の評価がもらえることになった、ということです。
これを知っていて、断熱性能を落として省エネ基準を得ているローコスト系ハウスメーカーもあります。
では、基準仕様を踏まえながら計算を始めてみましょう。
まずは、旧省エネ4等級の仕様規定を満たしていない天井と床を変更します。
・③:HGW16 t=160
・⑤:XPS t=65
結果、Ua値が0.79になりました。
次に、施工に無理のない範囲で種類や厚みを変えてみます。
・③:厚みが変えやすい吹込みタイプのGW10Kに変更し、t=300とします。
・④:柱太さ同等のt=120にします。また、性能をHGW40にUP。
・⑤:大引きや根太の成を踏まえ、t=90にします。
結果、Ua値が0.71になりました。
次は、施工上は何も変わらない窓を変えてみます。
・⑥:「アルミ樹脂複合枠+ペアガラス(A12)Uw=3.49」に変更。
結果、Ua値が0.62になりました。
ここまでで分かることは、窓変更が一番効果的(0.09削減)である、ということです。
これは見方を変えると、今まで一般的に使っていた窓の性能が悪すぎる、ということです。
窓性能で言えば、日本より寒い地域が多いヨーロッパの国々はまだしも、同じアジアの韓国や中国より悪いのが現状です。
さて、施工に無理のない範囲で変更を繰り返し、Ua値が0.62まで来ました。ここまで来ると、ZEH基準0.60又はG1基準0.56までもう少しです。
では、効果の高い窓でもう少し良くしてみましょう。
・⑥:「樹脂枠+Low-Eペアガラス(A12)Uw=2.33」に南面のみ変更。
結果、Ua値が0.56になりました。
いよいよ最後の変更です。
ここまで来ると、同じような施工方法及びなるべく安価な商品で性能を良くしていくのも限界が来ます。
そこで、今回は壁を「充填断熱+付加断熱」に変更したいと思います。
・④:「充填 + 付加/HGW32 t=45」に変更。
・⑥:「樹脂枠+Low-Eペアガラス(A12)Uw=2.33」に北面も変更。
結果はUa値が0.46になり、G2基準をクリアする性能になりました。
付加断熱はハードルが高いように思いますが、t=45でしたらインゴー角(45×45)を壁に取り付ければ良いので、さほど難しいことではありません。
また、付加断熱の材料としては「t=60」の商品もあります。
施工上は「t=45」とさほど変わらず、値段も全体から見れば大した金額ではないので、採用に値するとは思います。
更に、窓も全ての面を樹脂枠Low-Eとすれば、Ua値は0.43までは下がります。
※ここまでの計算で使用した数字は、材料として一般的なものを使っていますので、選択した商品によっては多少前後すると思います。
HEAT20の基準とは
まとめです。
HEAT20では、下記のシミュレーションをしております。
1)冬期間の室内最低体感温度(4~7地域)
断熱等級4では概ね8℃を下回らないが、G2レベルでは概ね13℃を下回らない
2)全館連続暖房方式における暖房負荷削減率
断熱等級4レベルの部分間欠暖房方式と概ね同等のエネルギーで全館連続暖房が可能
部分間欠暖房によるヒートショックの問題は昨今話題となっておりますが、室温が低いことも健康被害があるために欧米では最低室温の規定などがあります。
断熱性能は、施工上は大きな変化を必要とせずにG2レベルまで上げることが可能です。
確かにイニシャルコストは掛かりますが、使用エネルギーの削減や健康被害が減ることによる医療費の削減なども考慮すれば、ランニングコストでペイ出来る可能性もあると思います。
そういったことを踏まえ、尚且つ、室内の温熱環境が改善するとなれば、少なくてもG2レベルの断熱性能を目指すことがその第一歩かと思いますが、皆さん如何でしょうか。