column030 パッシブデザインを考える

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パッシブ建築とは

先日、とあるミーティングで「パッシブ建築って、結局何なの?」という議論になりました。
その場では、「通風と躯体強化で言えば、どっちが正解?」的な話しも上がっていましたが、それも余り的を射ていない考え方だな、と思いながら聞いていました。

本来「パッシブ(デザイン)」とは、特別な動力機器を用いず、自然の要素である太陽光や風・雨水などを建築的に利用して屋内の環境調整を行う設計手法のことを指しています。

従って、パッシブ建築とは「自然の要素で屋内環境と整える建築」ということになりますが、今の時代を考えれば電気のない生活は成り立たないわけで、何の動力も使わないことは現実的ではありません。

それらを踏まえ、パッシブデザインをもう少し噛み砕いて考えると、要は「なるべく省エネに屋内の快適性を得る」ことではないでしょうか。

 

省エネと快適の両立

ここで大事なことは、省エネで快適を得ることです。
「省エネと快適の両立」と言い換えても良いですが、両方が揃って初めて「パッシブデザイン」だということです。

例えば、先にも上がった通風ですが、自然の要素そのものですので省エネには違いないですが、風が吹かなければ快適が得られないので、風任せな「欲しい時にあるとは限らない」快適ということです。
そう考えると、ちゃんと両立しているのか?はいささか疑問です。

では、躯体強化はどうでしょうか。
躯体強化とは、いわゆる断熱・気密のことですが、効果としては屋外環境からの影響をなるべく減らすことに寄与します。

従って、これは(直接的に)省エネか?と問われれば違うかもしれませんが、快適を得るために何か(化石でも自然でも)エネルギーを投入する時には少ないエネルギーで済むので、そういった観点からは省エネに寄与しています。

分かり易く言えば、躯体強化とは屋内環境を整えるためのベースを作ることにつながります。

さて「通風と躯体強化で言えば、どっちが正解?」の答えですが、どちらも正解で不正解だと私は思います。
要は、パッシブ建築にするための優先順位があるだけで、通風も躯体強化も必要でどちらかを選ぶものでもありません。

ちなみに、優先順位で言えば、まずは躯体強化をしてベースを作ることが重要です。
通風は、時と場所を選ぶ要素ですので、付加価値程度に考えておくと良いかもしれません。

 

自然との共存は正しいのか

先日のセミナーで近畿大の岩前先生が仰っておりましたが、裸の人間は自然の中で過ごした場合、30年ほどしか生きられないそうです。
しかし、日本人の平均寿命は80年以上あるわけで、それを実現していることの1つが快適な屋内環境にあります。

昔からパッシブデザインを謳って建築設計をしている方は「自然との共存」を良く言いますが、先の話しからも分かるように実は人間にとって自然は脅威である側面もあり、共存を目指すことが人の暮らしにとって良いこととも言えません。

自然の要素だけで今の時代に添った快適が得られるなら良いですが、それを目指すことはある意味で時代錯誤になる可能性もあり、余り特別な動力を使わないことに執着し過ぎると、本来目指していたことが見えなくなることもあるかと思います。

太陽や風といった自然の要素と上手に向き合いながら、省エネと快適が両立している今の時代に添ったパッシブ建築を目指すべきかと思いますが、如何でしょうか。

 

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