ストック建築と住宅医

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ストック建築の活用

私が今年から参加している東京建築士会・ストック委員会では、今のストック時代を生き抜くために私のような建築士がどのような知識を習得し、職域を発展させるべきかの調査・検討を進めています。

ストック建築(ここでは既存住宅とします)を性能向上させるためには、単に知識だけではなく、分析力・技術力・実践力を備えている必要になりますが、その為には継続的に新しい知識を学び、経験を共有する場も必要です。

今回、そんな場を「住宅医スクール」として提供している三澤文子氏を講師としてお招きして「既存住宅改修方法の提案-かかりつけの医者のように住宅を診て治す力をつける」というセミナーを行いました。

 

住宅医とは

英国を始め欧米には、CIB(国際建築協議会)やAEEBC(ヨーロッパ建設技術専門家協会)などが「既存建築の欠陥の調査や診断」「診断された欠陥の経過予想」「補修設計とその監理」などについて定義した「建築病理学」という分野があります。

三澤さんはその分野にいち早く注目し、住宅医協会の発端となった「木造建築病理学」という講座を岐阜県立森林文化アカデミーに開設しました。

その後、住宅医ネットワークを経て住宅医協会を立ち上げますが、「かかりつけの医者のように、患者(=既存住宅及びその施主)の状態をきちんと把握して対処できる人材」を「住宅医」と名付けました。

住宅医には、約1年間の講義(月1回程度)をすべて受講し「修了生」となった後、検定会に発表した改修実例が認められるとなれますが、英国の公認サーベイヤーが最低5年の教育と実務が必要な例を参考にしたそうです。

 

新築と言う名のストック建築

セミナーでは、住宅医の活動を中心にご講義頂きましたが、ここでは新築について少し書きたいと思います。

三澤さんも講義の中で仰っていましたが、多くの住宅改修に携わったことで新築の設計が変わったそうです。
要は、住宅改修に携わることの利点は、住宅建築で起こる問題点などを目の当たりにすることだからです。

例えば、在来浴室のある既存住宅の多くは、周辺の柱や土台に蟻害があるか腐朽しています。
これは、きちんと防水されていない浴室内の湿気が柱や土台を高い湿潤状態にして、材を腐朽させることになりシロアリを呼ぶことになるからです。

そういったことを目の当たりにすると、建物の長寿命化を考え耐久性を向上させるために、ユニットバスの採用やきちんと防水された在来浴室を施工することに繋がります。

ストック建築とはすでに存在する建築物を指していますが、ストック委員会では、今日竣工した建築もその日からストック建築であると考えています。
そういったことでは、どういった新築を造っていくのかも非常に重要なことです。

これからの新築は、少なくても既存改修された建築より長寿命で高性能であることが求められます。
耐震で言えば、等級2や等級3、温熱で言えば、HEAT20のG2レベルの断熱性が必要だと思います。

それは、改修ではなく新築を選択する方々の義務といっても過言ではないと思いますが、如何でしょうか。

 

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