パッシブデザインのための住宅設備を考えるシンポジウム
12月9日に東京で行われた「パッシブデザインのための住宅設備を考えるシンポジウム」に参加して来ました。
住宅設備には色々とありますが、ここで語られたのは主に空調のお話です。
一般的な空調方法としてはエアコンがありますが、不快な気流感や乾燥感などを理由としてエアコンそのものを毛嫌いしている方は多いかと思います。
しかし、実際は住宅性能そのものが悪いため、エアコンで設定された温度にするためには(以下、冬想定です。)たくさんの暖気を運ばなくてはならず、エアコンからすれば、与えられた命令に対して頑張っているだけなのに「何で嫌われなきゃならないんだ!」と思っているかもしれません。
今回の講師であるエコモ株式会社の三原さんは、パネルヒーティングと空調換気設備の施工会社の社長さんですが、重要なのは断熱と気密だと力説していました。
断熱・気密が良くなると、基本的には少ない設備で済むようになります。
三原さんからすれば、仕事がなくなる話にも聞こえますが、実際はそうとも言えません。
住宅性能が良くなると何が起きるのか?
実は、住宅性能がよくなることによって、設備の選択肢が増える、とのこと。
もっと言えば、設備業者の知識や技術が必要になって来ることにつながります。
簡単に書きますと、住宅性能が悪いと「(三原さん曰く)暴力的に暖気を送る」か「コタツみたいに部分的に温める」しか方法がありません。
正直、この住宅では設備業者のノウハウは必要なく、ただただ機械に頑張ってもらうしかありません。
しかし少しの暖気で良くなると、エアコンでも気流感は起きにくくなり快適にすることが可能になります。
さらに、この住宅は性能が良いので、1台のエアコンでも家を温かくすることが出来ますが、設置場所を間違えると「その部屋しか温まらない」なんてことが起きます。
また、エネルギー効率が良くなるので、例えば熱交換換気システムを導入して更に効率を良くしよう、なんてことにもなりますが、きちんとダクト配管をしないと思っていた効果が出ないことになります。
これらを改善するためには、設計士の知識や技術、施工者の知識や技術が必要になってきます。
設計士は空調換気設備のことを知っているのか
ここで、最近私が体験したことを参考までに書いておきます。
先日とあるハウスメーカーの戸建て住宅の設計図書を見る機会がありましたが、そのお宅は第一種熱交換換気システム(以下、熱交)を各階で1台ずつ導入して換気を行っていました。
しかし住宅性能としては、断熱は省エネ4等級レベル、気密は(測定しないようなので正確には分かりませんが)断熱材は袋入りで、耐力壁は耐力面材ではなく筋交ベース、引き違い窓多数、などの条件を考えるとC値で1を切ることは難しいと思います。
熱交の場合は、C値が0.5以下でないと設計した換気回数で換気が出来ないことは分かっています。
このお客様は、きっと色々と調べて「熱交が良さそうだ」ということで採用したと思います。
(このハウスメーカーは、普段は第3種換気なので。)
しかし、設計士もっと言えばハウスメーカー自体に知識がないので、住宅性能は特に変えないまま、お客様の要望通りにただ熱交を設置しただけです。
また、換気メーカーも換気回数などを計算しているみたいなので、設計図書は見ていると思います。
しかし、機器を売りたいがためにそれらには目を背けている可能性があります。
(換気メーカーが気密の重要性を知らないはずがないので。)
施工についてもきっと同じで、知識がないハウスメーカーの下請け業者なので、気密性を気にして施工してくれる可能性は低い(そもそも、設備工事の気密性だけ気にしても仕方ないですが。)と思います。
設備工事で重要なことは何か
先の話のようにお客様から「熱交換換気システムを導入したい」との希望があった場合は、住宅性能を上げる提案をするのが本来の順番です。
断熱性を上げて、気密性を上げて、窓の性能を上げて、それでも資金に余裕があるなら熱交を提案します。
また、住宅性能を考える場合、何か1つを上げたから性能が良くなるものではありません。
言い方を変えれば、何かをすれば別の何かをする必然性が出てくるということです。
三原さんは、ちゃんとしたパッシブハウスが出来るかは施工者による、と言っていました。
確かにそれはそうですが、元々の設計がダメだといくら三原さんが頑張った所でダメなものはダメです。
要は、現在は高性能住宅然り、ダクトによる空調換気が主流ではないので、きちんと知識と技術もった施工会社にお願いしないと設計通りの性能が出ませんよ、ってことだと思います。
三原さん曰く、(高気密が前提ですが)ダクト換気で性能が出ないのは、ほとんどダクトの施工不良とのこと。
気密の重要性を理解して、正しく丁寧な施工をしてくれる方に工事をお願いすることは重要なことの1つです。
給気冷暖房システム
最後に、シンポジウムで森さんからお話のあった設備について。
建物が高性能化してくると設備がシンプルになってきて、パッシブハウスまでになると換気風量(家中の空気が2時間で1回入れ替わる程度)の熱量で家を暖房することが可能になります。
現在よく見かけるシステムとして、熱交換換気システムにアメニティエアコンを接続する全館空調換気システムがあり、スティーベルを始め、ローヤル電機やガデリウスなどの熱交換換気システムを販売している会社がシステム提供をしています。
第1種熱交換換気システムを導入する場合はダクト工事がありますので、そのダクトを利用して冷暖された空気を運んでしまおう、という合理的な考え方になっていますが、風量の違う機器を接続することによる注意事項などがあります。
これが進んでいくと、じゃあ1台の機器で両方出来ないの?ってことになりますが、実はそんな空調システムが中国で販売されています。
それが給気冷暖房システムで、1台の機器で換気と空調が出来る仕組みになっており、給気程度の風量に冷暖気を乗せて居室などを空調することが可能になっています。
そもそもは、森さんがパッシブハウスカンファレンスで発表したことを聞いて、中国の方々が作ってしまった!(その行動力には恐れ入りますが。)という前振りがある空調換気システムです。
さて、そんなシステムを日本に(ある意味逆輸入して)導入した事案が、現在3件ほどあります。
森さんは自身の案件で2件採用しておりますが、どんどん性能が進化しているそうで、そのスピードは驚きです。
まだ実験的な運用にはなるので、お客様の理解が必要になりますが、空調換気システムの1つとして検討に価する設備になっていると思います。
空調換気システムの知識や技術については、今まで求められていなかったこともあり、多くの設計士は不足していると思います。
高性能住宅を設計しますと、断熱・気密の知識や技術はもちろんのこと、これからは空調換気についても重要なテーマになると思いますので、今まで手を出して来なかった設計士も、そろそろ重い腰を上げた方がいいかもしれません。