住まいにおける良好な温熱環境

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住まいにおける良好な温熱環境とは

先日、久しぶりに慶応義塾大学理工学部教授である伊香賀氏のお話をお聞きするため、東京建築士会とベターリビングの共催で行われた「住宅における良好な温熱環境の実現に向けた実務者講習会」に参加して来ました。

伊香賀氏は、住宅の温熱性能が暮らす方々の健康にどのように影響をもたらすのか、を高知県梼原町などの自治体と協力して長期間の実態調査をされています。

結論を先に書くと、温熱環境の良し悪しは健康と密接に結びついていることが分かる調査結果となっておりますが、今日はお聞きした内容を少しご紹介したいと思います。

 

温熱環境と血圧

高血圧予防には、一般的には生活習慣を見直すことが重要だと知られていると思います。

例えば国のガイドラインでは、高血圧が引き金となる循環器疾患の発病リスクを減らすために「食塩6g/日未満」や「有酸素運動を毎日30分以上行うこと」などを推奨しています。

また、厚労省は「健康日本21」において国民の最高血圧を平均4mmHg低下させることで、脳卒中死亡数が年間約1万人減少すると推計しています。

このように、血圧に気を配ることは健康を維持する上で重要なことが分かります。

では、この血圧と家の温熱性能がどのように関わって来るのか、ということですが、、
起床時の血圧測定調査を行ったところ、室温が10℃と20℃の家で比較すると3.8mmHgの違いがあることが分かったそうです。

これは30歳男性の値ですが、高齢者になるほど上昇度合いが高くなります。

この3.8mmHgという値ですが、先の脳卒中死亡数減少の値とリンクしませんか?

単純にこの比較をもってどうこうは言えないと思いますが、室温を上げることの効果はイメージ出来るのではないでしょうか。

 

入浴中溺死と交通事故死を比較


上記のグラフを見ると(グラフ下の文字が化けていますが、年度を表しており一番右が2018年)交通事故死より浴槽での溺死の方が多いのが分かります。

これは多くの方が知っている通り、いわゆるヒートショックが理由の1つであり、消費者庁でも入浴中の注意喚起として「入浴前に脱衣所や浴室を温める」ことを挙げています。

また、消費者庁は注意喚起の1つに「湯温は41℃以下、湯に浸かる時間は10分まで」ということも挙げています。
これは、年配者になると温冷感覚は鈍くなることが原因で、要は熱中症のような状態になってしまうことがありますので、それを避けるためにこのようなことも注意喚起の1つとして挙げています。

確かに、熱いお湯や長湯が気持ち良いのは分かる気がしますが、そもそもどうして長湯をしたくなるのでしょうか。

実はこれも住宅の温熱性能が関係しているそうで、調査結果として、居室と脱衣所が18℃未満の場合より各室が20℃以上の方が「熱め入浴及び長め入浴共にその頻度が減少」したそうです。

要は、家が温かいので浴槽に浸かることで温まる必要性がなくなった、ということです。

これは、パッシブハウスに住んでいる方から「お風呂がシャワーで済む頻度が増えた」と私も聞いたことがあり、やはり家そのものが快適なので、浴槽に浸かることによる快適感を欲しない、ということかと思います。

その他、活動的になったとか、脳神経の経年劣化が少ないとか、園児の病欠が1/3になったとか、面白いお話が色々とありました。

今現在、高血圧の治療で「家を温かくした方が良い」と指導してくれるお医者さんはほぼいないと思います。
しかし本来は、生活習慣の改善や薬を服用するなどの前に、きちんとした温熱性能の住まいで暮らすことが重要かと思いますが、皆さん如何でしょうか。

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