プロローグ
歴史をみても、家づくりは時代と共に変化していくものだと思います。
昨今は、家の「高性能化」に注目が集まっていますが、それらの基本は「耐震」「耐久」「温熱」です。
耐震性に関しては、地震大国・日本では当然の要素ではありますが、大地震でも木造家屋が倒壊しないレベルの法律が整ってからまだ30年も経っていません。
耐久性や温熱性については、法律がない又は出来て数年と言ったレベルですので、発注者側(要は、家づくりされる皆様)が勉強することが不可欠である、ともいえる状況です。
さて、題名として「これからの住宅建築のあり方」としましたが、これからの時代に必要な要素である「高性能」という家づくりの考え方を軸に話しを展開しています。
既に、語りつくされたことのように思う部分もありますが、普通にローコスト住宅が売買されていることを見聞きすると、まだまだそういった情報を発信していくことに意味があるように思います。
また、物価の高騰で家づくり自体が難しい時代にもなりましたが、だからこその「高性能」だとも思います。
最近はAIの登場によって、ネットに拡散された情報を瞬時にかき集めることが出来るようになりましたが、プロの私がそれらの情報を読んでいると、ちょっと違うんだよな、ということもそれなりにあります。
まあ、初期の情報収集としては、ただのネット検索と比較して情報量やその収集スピードが段違いに優れているのですが、やはり、理解のある誰かひとりがまとめる方が精度としては高いようにも感じます。
そこで大変恐縮ではありますが、今回はわたしが「理解あるひとり」となりまして、家づくりのコラムを書いてみたいと思います。
今回の目次です。
1.高性能住宅とは
2.パッシブデザインとは
3.パッシブハウスとは
4.設計するとは
5.建築コストのこと
私自身、(温熱に関しては)パッシブハウスの考え方を基本に設計に取り組んでいますが、実際にパッシブハウス認定物件しか設計しないわけではありません。
それは、考え方を取り入れることと認定そのものは別だと考えているからでもありますが、本コラムをご拝読頂けるとそれらのことも理解が深まるのではないかと思います。
これから、住宅建築を目指す方々のご参考になれば、幸いです。
1.高性能住宅とは
「家づくり」とは、決して一言では語ることが出来ないほど多種多様な要素の上で成り立っています。
例えば、高気密高断熱住宅やエコハウス、省エネ住宅などの呼び名は、断熱性能の良さや日々の光熱費等が安く済みそうな印象はありますが、耐震性や耐久性に関しては何も触れていません。
弊社では、断熱性能だけではなく耐震性や耐久性も含めた呼び名として「高性能住宅」という表現していますが、高性能と表現する理由は「建築基準法を満たすだけでは家の性能としては足りない」と思うからです。
よって「本来の家づくりに必要な性能をきちんと考えています」ということを「高性能」という言葉で表現しているとも言えます。
先ほども書きましたが、その「高性能」の軸は「耐震」「耐久」「温熱」です。
家づくりには、デザイン性や使い勝手などの要素も大事ではありますが、「家」である以上は自身やご家族の安全・安心・安らぎがきちんと守られる環境であるべきです。
ここで本来であれば、三要素について解説した方が良いのですが、別の機会に書こうと思います。
尚、更に詳しくお知りになりたい場合は、弊社へお問合せ頂ければ、弊社の経験を踏まえた一般論をご説明致します。
話しを戻しますが、
それでは、それらの三要素の性能を決めるのは誰でしょうか?
ここが大事な部分ですが、これらの三要素を決めるのは、プロ側である設計事務所若しくは工務店という点です。
この家の基本性能というべき部分は、家づくりをされる方(以下、一般・施主・クライアント)がいくら勉強したところで、普段から業務に取り組んでいるプロの知識や経験に(近づくことはあっても)勝ることはないと思っており、プロ側が決める大きな理由の1つです。
しかし、それは一般の方が勉強しなくても良い、ということではありません。
その理由は簡単で、依頼すべき設計事務所や工務店を選択するため、に勉強が必要だということです。
高性能は、法律上は必要がない性能の為に、プロ側の考え方でだいぶグラデーションがあります。
例えば「耐震」に関して言えば、「耐震等級3」にしない理由はほぼありませんが、そこまでの性能は不要と語るプロが実際にいます。
ここで施主が勉強していれば、この会社大丈夫かな?と疑問に持てますが、不勉強であれば見抜くことが出来ません。
人が良さそうなこととプロとしてきちんと勉強しているかは別の話しだと思いますので、自分にあった設計事務所や工務店を見つけるためにも、施主として最低限の勉強は必要だと思います。
2.パッシブデザインとは
パッシブデザインは、先ほどご説明しました「温熱」という部分に関わりのある設計手法の1つです。
念のため、パッシブデザインをおさらいしておくと、、
・特別な動力機器を使用しないで屋内環境を調整すること
なので、断熱性や気密性、日射の取得・遮蔽や通風などを考えることがパッシブデザインです。
特別な動力を使用しないということは、言い方を変えれば「建築的手法で解決する」とも表現出来ますが、外皮(外壁や屋根等のことで、屋外と屋内を仕切る建築部分の総称)の一要素となる断熱は、外気温の影響による屋内の温度変化を緩やかにすることが出来ます。
また、窓から適切に日射取得することは、冬季の暖房機器の使用時間を短くすることに寄与します。
こういった屋内環境の調整機能がいわゆるパッシブデザインとなりますが、家づくりにおいて建築士の知識や技術に最も差が出る部分がパッシブデザインだ、とも言えます。
何故か?
それは、数字による定量的な評価が簡単ではないことです。
例えば、先の「日射取得は、冬季の暖房機器の使用時間を短く出来る」ことは確かなことですが、その効果の程度、いわゆる「光熱費としてどのくらい安くなるのか?」を評価するためには、外気温や日射量などの気候条件を始め、断熱性能や窓の性能、内部発熱量などの値を導き出さないと評価が出来ません。
そういった背景から、昔ながらに「日射を利用しよう」とか「通風を利用しよう」と謳う方は、何の根拠もないことが殆どだと思いますが、現在では、パッシブデザイン要素を定量化出来るシミュレーションソフトが世の中に登場して来たことにより根拠のないことの正義は無くなりました。
建築士の知識や技術に最も差が出ることに変わりはないですが、定量的に評価出来るようになったパッシブデザインを当たり前にように利用していくことが可能になったことは、大変よいことだと思います。
ちなみに、ここで書いたようなシミュレーションソフトを利用している設計事務所や工務店はまだまだ少ないと思いますので、家づくりの依頼先を検討する場合は、きちんとシミュレーションをしているのか?を確認すべきかと思います。
3.パッシブハウスとは
先にも書いたように、パッシブデザインを評価するためにはシミュレーションソフトを利用する必要がありますが、そのパッシブデザインを定量的に評価した建築が「パッシブハウス」です。
パッシブハウスは、PHPPというエクセルソフトでシミュレーションして評価しますが、入力項目が多岐に渡るために、狙い通りの正しいシミュレーション結果を導くためには、弊社のようにある程度の知識と経験が必要になります。
パッシブハウスは、暖冷房需要という要素で評価(シミュレーション)しています。
この冷暖房需要をシミュレーションするために必要なことは、外気温や日射量などの気候条件を始め、断熱性能(Ua値)や窓の性能、内部発熱量、更には日射取得や日射遮蔽量の値も必要です。
日本の温熱設計の考えた方に「省エネ等級」や「HEAT20」といったものがありますが、多くの設計者が使いやすいように考えられている部分もあり、計算の精度や実生活なども考慮すれば、パッシブハウスの方が優れていると個人的には思っています。
反対に日本の省エネ基準などとは違い、パッシブハウスは誰でも取り組めるわけでもなく、例えば、
・日射取得や遮蔽効果をきちんと3D解析する
・断熱欠損となる熱橋(ヒートブリッジ)部分をきちんと解析する
といった技術や知識が必要ですが、日本の法律や基準ではほとんど無視されています。
実際は、設計者自身が評価しなくても良いように見込んでいる部分もありますが、見方を変えると、日射や熱橋の知識がないままで温熱設計をされているプロが大勢いらっしゃるということです。
日射取得や遮蔽は、実生活を考えると大きな影響を与えます。
例えば、弊社のクライアントの方々でもあることですが、夏に
・エアコンが利きにくい
といった連絡を頂くことがあります。
で、よくよくお話しをお聞きすると、日射遮蔽のためにつけた外付けブラインドを使っていないと。
ここでようやく弊社クライアントも日射の影響が凄いということを実感するわけですが、そういったことを考慮しないで設計を進めることは果たして良いのか?ということを(設計が始まる前に)施主としても知っておく必要があろうかと思います。
その他、パッシブハウスについて詳しくお知りになりたい方は、以下の弊社HPもご参照頂ければと思います。
→ PASSIVEHOUSE|ArchiAtelierMA|東京都豊島区のパッシブハウス設計
4.設計するとは
高性能住宅の部分でも書きましたが、「家づくり」は多種多様な要素の上で成り立っていますが、これらをクライアントの希望を踏まえてどう料理するのか?が「設計する」ということです。
例えば、温熱的な部分で
・パッシブハウスまでは不要だけど、省エネ等級7にしたい
といった希望があったとします。
想像するに、クライアントの希望としては、
・パッシブハウスは費用がかかりそうだけど、断熱性能は高くしたい
といったことかなと思います。
話しとしては分かります。
では、その希望だけを鵜呑みにすれば、
・断熱性能が下がる要素である「窓」は不要
ということにもなりますが、窓には断熱性能という評価以外にも、
・「日射(熱利用)」「採光」「換気」「通風」
などの役割が存在しますので、全くつけないということもあり得ません。
それは結果として窓が付くことになりますが、設置される以上はそれの評価はしないといけないわけで、
「省エネ等級7」という設計手法では足りないことにならないでしょうか。
「省エネ等級6」や「HEAT20・G2グレード」で十分と言ったことをプロが発言していることがありますが、結果として十分かどうかを評価するためには、それ以上の設計力が必要かと思います。
ひとまず、温熱という要素で例えをしましたが、耐震も耐久も同じです。
どのぐらいの性能を目指すのかを決める為には、三要素を幅広く、そして深く知っている必要があります。
その広さや深さが設計力につながりますが、設計の難しいところは、その三要素のみで決まるわけではない点で、
三要素ですらデザイン(カッコよさの他にプランニングや快適性、使い勝手なども含む)という大きなくくりの中にありますし、一番重要ともいえる「クライアントそれぞれの個性」を紐解く観察力や共感力、理解力のような、いわば人間力的な部分も必要があるわけで、設計は一筋縄でいくものではありません。
ちなみに、設計事務所は先の通りに
・クライアントの個性に合わせて設計する
という設計方法ですが、工務店はある意味で
・設計はクライアント不在のまま完了している
とも言えます。
ちょっと分かりにくいことですが、次の「5.建築コストのこと」の中で合わせてご説明していきます。
5.建築コストのこと
家づくりを目指される皆様との初回ご面談時に多い質問の1つが「建築コスト」です。
弊社の場合は設計事務所ですから、ご面談時に正確な建築コストをお伝えすることが難しいですが、その時に設計中や工事中の案件を踏まえた金額をご提示するようにしています。
例えば、お伝え出来ることとして、、
・規模感(木造2階建て、40坪程度など)
・基本性能(三要素や窓仕様など)
・設備仕様(空調換気システム、太陽光発電システムなど)
・造作家具の仕様(オーダーキッチンの有無など)
などがあります。
これらの情報で大よそのコストは分かる為に概算としては伝わると思いますが、実際に設計を行ったわけではありませんので、正確には設計して工事見積するまでは分かりません。
一方で、工務店さんの場合ですが、比較的正確に金額をご提示出来ることが多いと思います。
その理由が「4.設計するとは」の最後で書きました「設計はクライアント不在のまま完了している」に繋がります。
要は、「基本性能」「設備仕様」「造作家具の仕様」がある程度は決まっている為に金額がご提示出来るわけですが、言い方を変えると、クライアントの希望はさておき「設計が完了している」ことの裏返しです。
実際には、クライアントの希望を設計に加味する工務店さんもいらっしゃいますが、その程度はグラデーションがあることなので、ご面談時などで確認した方が良いかと思います。
また、工務店さんの方が建築コストを把握し易い理由として、設計中から工事請負契約までの期間が短いために値上がりなどの予想もつきやすいことがあります。
冒頭にも書きましたが、現在の物価上昇は半端ではありません。
また、コロナ以降は値上げしても大丈夫な空気感になっており、例えば、現在も戦争の影響でナフサ問題が起きたことで様々な商品が値上げしていますが、コロナ以前であればここまでの価格転嫁はなかったようにも思います。
そういったことでは、家づくりの建築コストを検討することが難しい時代にはなりましたが、だからといって、ローコスト住宅で我慢する、といったことは違うと思っています。
建築コストを考える上で重要なことは、「イニシャルコスト」と「ランニングコスト」の両方を踏まえることです。
ローコスト住宅はイニシャルコストを抑えることは可能ですが、光熱費や維持費(メンテナンス)などのランニングコストは上がります。
また、屋内環境が整っていないことが殆どのため、快適な生活が送れないことにもなり兼ねません。
更に、将来的にランニングコストが今考えているコストで推移すればまだマシですが、光熱費自体は(一時的なことは別に)上がり続けていますし、維持費に関しても材料代や人件費が上がれば自ずと上がることになります。
そういったことを踏まえると、今の時代だからこそ家づくりを目指すなら「高性能住宅」ですし「パッシブハウス」だと思います。
最後に、
高性能住宅やパッシブハウスは、ランニングコストが抑えられる特徴がありますが、実は余計な資材やエネルギーを使わないということでは「サステナブル」であるとも言えます。
要は、高性能住宅やパッシブハウスでの生活は「サステナブル生活のはじまり」といっても過言ではありません。
現代社会を生きる私を含めた皆様は、子供たちの未来の為にも、サステナブルな社会になるような高性能住宅やパッシブハウスを目指して家づくりが出来ればと思いますが、皆様は如何でしょうか。
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以上です。
長文になりましたが、最後までご拝読ありがとうございました。
今後も弊社のコラムやブログをご拝読頂けると幸いです。
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執筆者の代表・丸山は、
★Certified Passive House Designer (パッシブハウスに関する資格)
★住宅医協会認定・住宅医 (改修工事に関する資格)
両資格を有している国内唯一の建築士です。


