Column036の続きです。
暖房基準とは
前回書かせて頂いた内容も含みますが、ここで暖房基準の概要を書かせて頂きます。
暖房基準には2つの方法が用意されており、、
1) 暖房需要:年間の暖房用エネルギー消費量(kWh/㎡・a)
2) ピーク負荷(暖房負荷):最も条件が悪い時に必要な暖房能力(W/㎡)
のどちらかをクリアすれば良いことになっています。
暖房需要を計算するためには、総熱損失量や室内取得熱・暖房度時の値が必要ですが、簡単に各項目を解説致します。
総熱損失量は、建物から逃げる熱量の総量になります。
外皮(壁や天井、床など)からの熱損失をはじめ、換気や漏気での熱損失もここに含まれます。
断熱性能や気密性能を良くすると、この値が減少します。
室内取得熱は、日射取得熱と内部発生熱の合計になります。
日射取得熱は、主に窓から得られる熱取得と熱損失の合計になります。
窓(ガラスと枠)性能が重要ですが、隣地建物や庇などは熱取得の方に影響を与えます。
内部発生熱は、家電や人から発生する熱量になりますが、人体発生熱は一人当たり100W程度と言われています。
暖房度時は、暖房期間中の毎時の平均気温と設定室温との差を積算したものです。
パッシブハウス(以下、PH)の場合は、室温を20℃に保つことを条件にしていますが、暖房度時は平均気温との差になりますので、ここで地域による違いを検討しています。
以前は、全国約840箇所にあるアメダスで観測されたデータからなる「拡張アメダス気象データ」を基にした値を使用しておりましたが、(2020年9月)現在はそれらのデータをPHIで補正した20数箇所を使用して検討しています。
PHPP暖房期ワークシート
PHの検討は「PHPP」というエクセルソフトで行いますが、ここからはその中身について解説していきます。
PHPPは(入力不要なシートを含め)全部で35種類のワークシートからなっているエクセルソフトです。
その中で、暖房基準を検討する上で入力すべきシートが「Climate」「U-values」「Areas」「Ground」「Components」「Windows」「Shading」「Ventilation」必要に応じて「Additional vent」の9シートあります。
「Climate」は、先に書いた気象データを入力するシートです。
基本的には、建築地から一番近い気象データを入力すれば良いのですが、月別の平均外気温や方位別の日射量、露点温度や天空温度などが入力値になります。
また、建築地の標高を入力するセルもあり、その値により気象データの補正が行われます。
「U-values」は、省エネ基準でも馴染みのある外皮の構成を入力するシートです。
これは、PHだからと言って特別な入力があるわけではないですが、木材による熱橋割合や表面熱抵抗値などは省エネ基準と比べると詳細な入力となっています。
「Areas」も基本は省エネ基準と同じで外皮の面積を入力するシートです。
尚、先のU-valueは特別な入力がないと書きましたが、Areasは省エネ基準と違いがあります。
まず、省エネ基準の床面積は柱(躯体)芯ですが、PHの床面積(厳密に言うと有効床面積で「TFA」と言います)は生活空間又は有効面積を対象にしていますので、床面積より小さい値になります。
また、PTPPで使用する外皮面積は「常に外皮の外側の面積」ですので、例えば付加断熱の厚みが増えると外皮面積も増えることになります。
従って、外皮からの総熱損失量は省エネ基準と比べ多くなりますし、暖房需要は分母がTFAなので一般的な暖房負荷計算に比べ計算が不利側になると思います。
最も、省エネ基準とは暖房度時(省エネ基準は暖房度日)の室温設定が違ったりと、結果のみで優劣を比べることは出来ませんが、PHの方が厳しい条件で計算されていると思って頂ければと思います。
「Ground」は、地中にある外皮の熱損失を計算します。
土壌による断熱効果なども考慮されるため、熱損失量が精度よく計算されています。
「Components」は、窓や換気装置など使用する部材の各仕様を入力するシートです。
窓は、ガラスと枠のそれぞれにU値などの性能を入力する必要がありますし、換気装置の熱交換率は全熱型の場合は「顕熱交換率」と「潜熱交換率」を別々で入力しなくてはいけません。
「Windows」は、窓の構成を入力するシートです。
窓サイズや取付方位、ガラスや枠の性能を入力することは省エネ基準と同じですが、Componentsで入力するデータが詳細なので得られる結果は全く違います。
「Shading」は、隣地建物や庇などの影響(どのぐらい影になるのか)を入力するシートです。
隣地建物の影響を検討することは省エネ基準ではないことですが、(当たり前ですが)その影響は大きいです。
日射の所得と遮蔽をきちんと評価するPH基準と、ほぼ断熱性だけで語る日本の省エネ基準との最大の違いがこのシートになるかもしれません。
「Ventilation」は、換気と漏気による熱損失量を評価するシートです。
PHでは建物の気密性能が決められており、気密性能試験をしないといけません。
「Additional vent」は、Ventilationと同じ換気による熱損失量を評価していますが、2つ以上の換気装置による換気計画の場合はこちらのシートを使用します。
例えば、熱交換換気システムによる全般換気の他に、キッチンやトイレに局所換気がある場合に使用します。
それと、各シートではご解説しませんでしたが、PHPPでは熱橋/ヒートブリッジ(以下、TB)を熱解析して評価しています。
基本的には断熱構成が切り替わる部分で現れますが、窓の取付部分も同じ論理でTBが発生します。
窓の取付部分は、上下左右合計するとかなりの距離になりますので、その影響を馬鹿に出来ません。
結果を見る
ここまで入力すると、「Verification」ワークシートで暖房需要の結果を知ることが出来ます。
結果セルが「NO」の場合は、「YES」に変わるように先ほど入力した各ワークシートを修正していくことになりますが、暖房基準にフォーカスしてシミュレーションするならば、基本は外皮性能(断熱と窓のU値)を良くするか、日射取得量を増やすことで改善します。
次は、冷房需要を知るためのワークシートを入力することになりますが、パッシブハウスの難しいところは暖房需要と冷房需要の両方をクリアしなくてはいけないところです。
先に書いた暖房基準の改善は、冷房需要の悪化につながります。
その辺りのことは、次回以降で書いていきたいと思います。
ひとまず次回は、冷房基準に関わることを解説したいと思います。
・パッシブハウスを知る-冷房編(column051)