column046 気象データを比較する

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暖房デグリーデー

住まいの快適性を考える上で断熱性能は重要なことの1つです。
Ua値で比較することが多いと思いますが、そもそもどういった数字なのでしょうか。

Ua値の単位を見ると「W/㎡・K」なので、面積1㎡で内外温度差1℃の時の熱の移動量を表していることが分かります。
例えば、Ua値0.87W/㎡・K(東京など6地域の省エネ基準)の場合は、「外気温0℃、室温20℃」の条件で「0.87×20=17.4W/㎡」の熱が移動するという計算になります。

ここから、Ua値が低いほど熱損失量が少なくなることが分かりますが、寒い地域などは気温低下による熱損失量を増加させないために、Ua値基準を0.75や0.56と下げて設定しています。
要は、気候の違いにより地域区分しているということです。

その省エネ基準の地域区分は、暖房度日(D18-18)で決まっています。
暖房度日(暖房デグリーデー)とは、暖房期間中の毎日の平均気温と設定室温との差を積算したもので、その地域の寒さの指標になる値です。

ちょっと分かりにくいので、簡単に「暖房度日(D18-14)」の場合でご説明します。
設定室温とは、目指すべき室温のことですが、ここでは18℃とすることを示しています。
暖房期間とは、暖房を行う基準温度を決めてその期間内とします。
ここでは外気温が14℃以下になる平年の初日と終日の期間のことです。

要は「外気温が14℃以下になる毎日の平均気温と設定室温18℃との差を積算する」の意味になります。

日本では、暖房開始や終了の頃は外気温が設定室温より低くなっても我慢して暖房しないことが多いので、このような暖房度日が使われることがあります。

 

気候(地域性)を評価する

先にも書きましたが、国が推奨する省エネ基準にある各地域は、暖房度日により地域区分されています。

そういったことでは、各地域の基準であるUa値は地域性も評価されていることになりますが、各地域の暖房度日の幅は最大で500度日あるため、結構ざっくりとした区分になっています。

全国には約840箇所の地域気象観測システム(アメダス)が存在しますが、本来はその箇所だけの地域区分があっても良いかもしれませんが、(数が多すぎて)国が推奨する一般解としては余り現実的ではありません。

しかし、全国で8地域しかない一般解での検討は、実際の暮らしを考えればそれはそれで現実的ではなく、より細かい地域区分で検討すべきではないでしょうか。

このように整理して考えると、やはりPHPP等の暖冷房需要をシミュレーション可能なソフトで検討しないと、本来必要な建物性能が導き出せないことが分かってきます。

通常、私が使用しているPHPP(や建もの燃費ナビ)は暖房需要や冷房需要を計算するシミュレーションソフトですが、先に書いた暖房度日(正確には、暖房度時)を計算値の1つとして使用しますが、その根拠はアメダス気象データによるものです。

 

地域区分で比較する

ここでは先の内容をふまえ、地域区分の違いで暖冷房需要がどの程度変わるのか、比較してみようと思います。
比較する地域は、5地域と6地域の計算代表時点である栃木県宇都宮市と岡山県岡山市とします。

尚、暖房度日(D18-18)は「宇都宮:2090」「岡山:1750」となっており、その差は(500度日>)340度日ですので、各地域の暖房度日の幅以下の違いしかありません。
※6地域は「1500度日以上2000度日未満」なので、最大500度日の違いがある。

比較対象は、PHPPによるシミュレーションで暖房需要と冷房需要としますが、PHPPの場合は「度時」で計算していますので、参考までに各値を記載しておきます。
・宇都宮(5地域)/暖房度時(D20):67237、冷房度時(D25):2656
・岡山(6地域)/暖房度時(D20):54050、冷房度時(D25):5657
※ちなみに東京都で言うと、東京23区は6地域、立川市・小平市などは5地域になります。
※東京(6地域)/暖房度時(D20):49466、冷房度時(D25):4313

まずは、温かい地域の岡山でシミュレーションします。
尚、比較に使用する建物は、弊社案件のHouse-MSをベースとしていますが、Ua値は0.28(W/㎡・K)程度です。

次に、気象データを宇都宮に変更してみます。

以下、結果と考察です。
暖房需要は「宇都宮25.17」「岡山21.66」となり、宇都宮を岡山程度の暖房需要にするためには、壁の付加断熱をネオマフォームt50→t70程度に厚くする必要がありました。
(※ネオマフォームにt70はありませんので、参考値です。)

ここで、何となく暖房度時の差の割には暖房需要の差が少ないな?と感じて、暖房期の日射熱収支を確認すると宇都宮の方が結構良いことに気が付きました。

要は、日射取得により暖房需要を減少することが出来た、ということです。
これは狙ったわけではありませんが、断熱性能だけでは建物性能が検討出来ないことを再認識する結果になりました。

断熱性能だけを見ていては、本来必要な建物性能が見えません。
本来あるべきエコハウスとなるように適切なシミュレーションを行い設計したいですね。

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