column020 空間と建築費を考える

「必要なものだけを単純化して、美しいところを備えていれば、居心地よい家になる」
これは、志賀直哉が「住宅に就いて」書いた随筆の一文です。

何を持って居心地が良いかは人それぞれかと思いますが、この一文から感じられる居心地の良さが私は好きです。
私は設計する上でお客様のご要望を伺いながら、それらを如何にシンプルにまとめられるかを考えます。中にはなかなか答えにたどり着けず、考えを2つも3つも只々重ねることがありますが、そういった時はだいたいうまく行っていない証拠です。なので、あるところまで考えるともっとシンプルな考えがあるはずだと初心に帰ります。そして、頭を整理し本当に必要なモノ・コトは何なのかを考えます。
住宅設計とはこれの連続であり、そこへたどり着くには技術や知識、経験が必要だと思っています。

住宅に必要な要素は、耐久性や耐震性、温熱性能など多岐に渡ります。また、それらにお客様のご要望が加わり、更に考える要素を複雑にしていきます。しかし、それら必要な要素やご要望をただ単純に重ねていくだけでは、建築費がどんどん膨らみます。如何に同じ性能の建物を、よりシンプルで合理的な方法で、美的な建築をデザインするのか、が重要だと思いますし、それらを考えるのが我々建築士の仕事です。
家を建てる・造る状況において夢や希望が無い人はいないと思いますが、それらが合理的に考えられている方はほとんどいません。我々はプロとして様々な提案やアイディアを出すわけですが、それらがお客様の意にそぐわないと思わせることもあります。そういった場合、お客様側も夢や希望に縛られず、フラットに物事を捉えられる状況にないとより良い選択が難しくなります。

その選択を難しくする要素の1つに「今の生活スタイルをそのまま維持したい」という要望があります。確かにそれが重要な時もありますが、それは今までの家に合わせて培ってきたスタイルであって、継続すべきスタイルとは限りません。家を建てる・造るということは、いろいろな事をリセットして新たなスタイルを築いていけるチャンスでもあります。
次に多いのは、広さに対するこだわりです。狭くて良いとの希望を持たれる方は余りおらず「広くしたいが、安く建てたい」が多くの方が思われる事だと思います。希望としては十分理解しますが、それは多くの建築費が掛かることにもつながり、広さを維持したまま安くすることは、性能や品質が下がることを意味します。ここで、性能や品質が下がることを伝えてくれる設計事務所なり工務店は良心的かと思いますが、金額で勝負しているような工務店はそのことを言ってくれるとは限りません。

念の為書きますが、真摯に住宅建築に取り組んでいる多くの会社は、性能や品質が下がらずに安くする努力(VE/バリューエンジニアリング)を行っていますが、それには限界があるということはいつも心のどこかに留めておいて頂きたいと思います。

建築費で言うと、その目安として坪単価というものがあります。おおよその広さに対する総額を知りたい時に確認することが多いですが、坪単価は性能や品質によって大きく変わります。なので、本来であれば「どのぐらいの性能で、品質はどのグレードを求めているのか」をきちんと伝えないと、その単価はあまり意味を成しません。
また、広さについても「何故その広さが必要なのか?」を考える必要があります。確かに、最低限として必要な広さはありますし、空間の広さが豊かさをもたらすこともあると思います。しかし、住宅に必要な広さとは空間の寄せ集めではなく、奥行感や陰影などによって豊かに表現された空間ではないでしょうか。

住宅建築には、多くの費用が掛かります。更に言えば、やみくもに造るだけではいくら予算があっても足りません。従って、「シンプルで合理的=必要なものだけを単純化」で「美的な建築をデザインする=美しいところを備える」ことは、建築費を削減しながらも居心地の良い家へとつながることかと思いますが、皆さんはどのように感じたでしょうか。